「もう何度言ってもダメなんです。両親がどうしても介護サービスを使いたがらないんです」
これは、私が地域包括支援センターに相談したときに、真っ先に口にした言葉です。
高齢の母が家の中で転倒したと知ったとき、私は強い不安に駆られました。「今すぐ介護サービスを使ってほしい」と焦る気持ち。でも、両親から返ってくるのは決まってこの言葉です。
- 「私たちはまだ大丈夫だから」
- 「そんなの年寄り扱いされてるみたいでイヤ」
……こんなふうに、親が頑なに介護サービスを拒む場面に、あなたも直面していませんか?
介護が本格化する前に手を打ちたい。でも、親の気持ちも尊重したい。
そのはざまで揺れ動く私たち50代。
今回の記事では、親が介護サービスを拒否する本当の理由と、私自身が少しずつ歩んだ“受け入れまでの道のり”を、綴っていきたいと思います。
親が介護サービスを拒否するのはなぜ?
介護が必要かもしれないと思ったとき、家族としては「安全に暮らしてほしい」という願いから、介護サービスの利用を勧めたくなりますよね。
けれど親世代、とくに70代・80代の方たちは、その申し出に対して強く拒否することがあります。
一見、ただの「わがまま」「頑固」に見えてしまうかもしれませんが、そこには親なりの深い想いがあるのです。
● 自立していたいという“強いプライド”
親の世代、とくに団塊の世代や戦後の復興期を生き抜いてきた人たちは、「人に迷惑をかけてはいけない」「自分のことは自分でやるのが当然」という価値観を大切にしてきました。
それゆえに、「人の手を借りる=弱い自分を認めること」だと感じてしまう方が多いのです。
「まだできる」「頼らずに生きたい」
そんな言葉の奥に、かつての親の誇りや気丈な生き方がにじんでいます。
● 「年寄り扱いされるのがイヤ」という本音
たとえ身体が思うように動かなくなってきても、心は元気で、年齢よりも若々しい感覚を持っている人もいます。
そんな中で、「介護サービスを使ったほうがいいんじゃない?」と周囲に言われると、それが「もう年寄りなんだから」という宣告のように感じてしまうのです。
これは私の両親もまさにそうでした。
「そんなの使ったら、もうおしまいみたいじゃない」
「誰かに世話されるようになったら、どんどん老けこむわよ」
そんなふうに、介護サービス=終わりのイメージを持ってしまう人は多いものです。
● 介護サービスそのものへの誤解や不信感
「知らない人が家に来るのがイヤ」
「変な人が来て、物を盗られたりしない?」
「一度使ったら、すぐに施設に入れられるのでは…?」
こういった誤解や不安が、介護サービスの拒否に繋がることもあります。
特に高齢になると、新しいことへのハードルが高くなるため、説明不足のまま話を進めようとすると不信感ばかりが募ってしまうのです。
● 自分の体調の変化を客観的に認識できていない
年齢を重ねると、疲れやすさや物忘れ、転倒の危険性が増していきます。
けれど親世代の中には、「ちょっとつまずいただけ」「忘れることなんて誰にでもある」と、自分の衰えを“まだまだ大丈夫”と過小評価してしまう人も多いのです。
現実を直視するのが怖い、という心理もあるでしょう。
拒否の背景にある“本音”に気づく
親が介護サービスを拒むとき、表面上は「イヤ」「いらない」と言っていても、その裏にはもっと繊細な感情が隠れていることが少なくありません。
それに気づかず、「どうしてわかってくれないの?」「もう限界なのに…」とこちらの気持ちばかりをぶつけてしまうと、かえって心の距離が離れてしまうことも。
では、どんな“本音”が隠れているのでしょうか。
● 「老い」を受け入れるのが怖い
介護サービスの利用を受け入れることは、ある意味で「自分はもう昔のようには動けない」と認めることでもあります。
これは、親にとって非常に勇気がいることです。
「もう昔みたいには動けないのか…」
「人に頼らなきゃならないなんて、悔しい」
そう思っているからこそ、現実を受け入れたくないのです。
● 役割を失いたくない
人は誰でも「自分の役割」がなくなると、どこかで自信や誇りを失ってしまうものです。
長年家を守ってきた母親にとって、「家事を誰かに代わってもらう」ことは、自分の居場所や価値が奪われてしまうように感じられることもあります。
「自分たちがやらなきゃ」という気持ちは、実は“存在意義を保つための努力”なのかもしれません。
● 家族に迷惑をかけたくない
表面では強く拒否していても、心の奥では
「できれば迷惑をかけたくない」
という思いを抱いている親も多いです。
それでも、「迷惑をかけている」と感じたくないからこそ、強がったり、あえて突き放すような言い方をしてしまうこともあるのです。
● 過去の経験からくる“怖さ”
以前、知人や身内が介護サービスを受けたことで嫌な思いをした経験があった場合、「ああはなりたくない」という恐れから拒否していることも。
あるいは、ニュースや噂話などを真に受けて、「介護=ネガティブなもの」という印象を強く持ってしまっていることもあります。
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親の気持ちを受け止めるステップ
親が介護サービスを拒否するとき、私たち家族の側はどうしても「説得しなきゃ」「納得させなきゃ」と思いがちです。
でも、そこに力を入れすぎると、逆効果になることも多いのです。
拒否の背景には、前章で触れたように「自分の衰えを認めたくない」「恥ずかしい」「家族との距離感」など、複雑な感情が絡んでいます。
だからこそ、まずは“受け止める”ことが何よりも大切。
ここでは、実際に私が試して効果のあった「親の気持ちをやわらかく受け止めるステップ」をご紹介します。
ステップ① 否定しない、遮らない
「まだ大丈夫って、そんなこと言って…」
「だから言ってるじゃない、危ないよ!」
つい、こんなふうに言ってしまうこと、ありませんか?
でもこれは、親にとっては「わかってくれない」と感じる一言。
まずは、親の言葉を途中でさえぎらずに「そっか、そう思ってるんだね」と、一度まるごと受け止めてみてください。それだけで、驚くほど親の表情がやわらかくなる瞬間があります。
ステップ② 親の“気持ちの言葉”を繰り返す
たとえば、親が
「他人に迷惑かけるのがイヤなのよ」と言ったとしたら、
「うん、“迷惑かけたくない”って思ってるんだね」と、親の言葉をそのまま繰り返してあげます。
すると、親は「ちゃんとわかってくれた」と感じ、気持ちがほどけてくるんです。
“正しさ”ではなく、“感情”を共有すること。これが信頼関係の土台になります。
ステップ③ 親の“これまで”を認める
「今までずっとひとりで頑張ってきたんだよね」
「お母さん、昔から人に頼らずやってきたもんね」
こんな言葉を添えるだけで、親は「自分を否定されていない」と感じ、安心します。
介護サービスを受ける=自分の価値が下がる、と感じている人もいます。
だからこそ、「これまでを認める」ことが、前向きな気持ちへの第一歩になります。
ステップ④ 無理に答えを出さなくていい
すぐに「じゃあお願いしよう」とはなりません。
でも、それでいいんです。
親の気持ちを整理する時間も必要。
焦って答えを急ぐのではなく、「また今度、一緒に考えようね」と伝えることで、親はプレッシャーから解放されます。
ステップ⑤ あなた自身の気持ちも、正直に
「お母さんに何かあったら…と思うと、心配で眠れない日もあるんだ」
「わたしも、できることはしたいけど、全部は難しいの…」
こんなふうに、あなたの気持ちも少しだけ伝えてみてください。
“責める”のではなく、“本音を見せる”ことで、親との距離が少し縮まります。
でも、本当に大事なのは「親がなぜそう言っているのか」に耳を傾けることです。 「嫌がってる理由、ちゃんと聞いたことありますか?」 私は、親に一生懸命伝えているのに、まったく伝わらないと感じていた時期がありました。 そんなときの気持ちを綴った記事があります。 👉 「子の心、親知らず」な介護の日々|わかってほしいのに、伝わらない親の“拒否”がやわらいだ瞬間
私の両親が、介護サービスを受け入れるまでには、正直、長い時間がかかりました。
何度も話し合いをしても、「私は大丈夫」「そんな年寄り扱いしないで」と突っぱねられ、私も何度も心が折れそうになりました。
でも、ある日――
それは母が自宅の洗面所で転んだという連絡をもらった日でした。
幸いにも大きなけがはありませんでしたが、もし誰もいなかったら…と思うと、ゾッとしました。
その夜、私は両親の家に泊まり、一緒に夕飯を食べながら何気なくこう話したんです。
「お母さん、今日びっくりしたね。
でも、ほんとに大けがじゃなくてよかった。
……でもね、わたし、正直なところ言ってもいい?」
両親は黙ってうなずきました。
「今日のことがあって、すごく怖かった。
お母さんに何かあったらと思うと、心臓がバクバクして…
それに、私、ひとりで全部を支えきれる自信がないの。」
母は目を伏せたまま、少し沈黙したあと、こう言いました。
「でもね…
誰かに頼るって、すごく勇気がいるのよ。
わかってるけど、怖いのよ。」
私はそのとき、「この人も、不安なんだ」と初めて気づきました。
強く見えていた母も、心の中では葛藤していたのだと。
そこからです。
少しずつ、話し方を変えました。
「お願いだから使ってよ」ではなく、
「わたしが安心するために、週に1回だけ来てもらえる?」というように。
すると、両親も「1回だけなら…」と、はじめて受け入れてくれたのです。
最初は、短時間のヘルパーさん。
それがとても優しい方で、両親の心をほぐしてくれました。
数か月後には「この前の人、感じよかったわ。また来てくれるのかしら?」と、母の口から笑顔で言葉が出たとき――父も同じ考えだと伝えられた時、私はこっそり、泣きそうになりました。
介護サービスを拒否していた両親が、ほんの少しだけ「人の手を借りてもいいかもしれない」と思えた瞬間。
それは、誰かに説得されたからではなく、
“自分のタイミングで、自分の気持ちが変わった”からだったのだと思います。
親の心を動かす“伝え方”のコツ
介護サービスをすすめるとき、私たち家族はどうしても焦ってしまいます。
「今、必要なのに」「このままじゃ危ないのに」
そう思うからこそ、言葉が強くなったり、説明が一方的になったりしてしまうんですよね。
でも、親の心を動かすには、“伝え方”に少しだけ工夫が必要です。
ここでは、私が実際に効果を感じた伝え方のポイントをいくつかご紹介します。
「お願い」ではなく「相談」の形にする
「お願いだから使ってよ」では、親もプレッシャーを感じてしまいます。
でも、「私がどうしたら安心できるかなって考えてて…ちょっと相談に乗ってくれない?」というふうに、“一緒に考える姿勢”で話すと、聞く耳を持ってもらいやすくなります。
「あなたのため」より「私のため」
介護の話をするときに、つい「父と母のために」と言いたくなりますが、
それよりも、「私が心配で、夜も眠れなくなりそうで…」と“自分の気持ち”を伝えるほうが効果的でした。
親は、「心配かけたくない」という気持ちが強いものです。
だからこそ、「私の安心のために、ちょっとだけ協力してくれない?」と伝える方が響くことがあるんです。
「全部やらなくていい」ことを伝える
介護サービス=自立の放棄、と感じる方もいます。
だから、「お父さん、お母さんは今まで通りでいいんだよ。ただ、ちょっとだけ手を借りるだけ」と伝えることで、親の中にある“プライド”や“役割”を保つことができます。
説得より、共感を
「なんでわかってくれないの?」ではなく、
「そう思うのも無理ないよね」「私も同じ立場なら、そう感じるかも」と一度受け止める。
この“共感”のワンクッションが、心の扉を少しだけ開いてくれるように感じました。
タイミングを見逃さない
一番大切なのは「親自身が少し不安になったタイミング」を逃さないことです。
転倒したとき、風邪をこじらせたとき、急に疲れたと言ったとき――
そういうときこそ、「少し助けてもらってもいいかもしれない」と思いやすい瞬間。
その一瞬を逃さず、優しくそっと提案するのがポイントです。
親の心を変えるのは、簡単なことではありません。
でも、伝え方を少しだけ変えることで、少しずつ変化が生まれることを私は体験しました。
そしてもうひとつ、私が強く実感したことがあります。
それは──
「家族だけで抱え込まないこと」も、愛情の一つだということ。
🍱 まずは「食事の手間」を減らす工夫から
「まずはごはんだけでも…」という始め方もおすすめです。
バランスのよい宅配食を利用すれば、親の体調を守りつつ家族の負担も軽減できます🌿
“がんばりすぎない介護”という選択
親の介護が始まると、私たちは「やらなきゃ」という責任感に突き動かされます。
「子どもなんだから当然」
「私がしっかりしなきゃ」
そんな思いがどんどん積み重なって、気づけば心も体も限界に近づいてしまうこと、ありませんか?
でも、あるときふと思ったんです。
「がんばりすぎることが、本当に親のためなんだろうか?」
介護=自己犠牲じゃない
介護って、誰かの命を支える大切なこと。
でもそれは、自分を犠牲にしてまでやることではないと思うんです。
自分をすり減らしながら続ける介護は、いつか限界を迎えます。
そのとき、本当に困るのは自分だけじゃなく、親も一緒。
だから私は、「自分を守る介護」に切り替えることにしました。
「ひとりでやらない」と決める勇気
介護サービスや地域包括支援センター、ケアマネージャーの存在は、まさにそのためにあるものです。
私も最初は、「そんなの利用したら親に申し訳ない」と思っていました。
でも、いざ使ってみたら…
「やっと、気持ちに余裕ができた」
「普通の生活が取り戻せた」
そんな実感がありました。
親との関係も、やさしくなった
余裕がないときは、親の一言にカチンときたり、
思わず怒ってしまったりすることも多かった私。
でも、少し手を抜けるようになっただけで、
「ありがとう」って言葉を素直にかけられるようになったんです。
介護って、「やさしくあるために、がんばらない」ことも大事なんだと、気づかされました。
「あなたの笑顔が、いちばんの親孝行」
そう言ってくれたのは、介護支援センターのスタッフの方でした。
そのとき私は、初めて涙がこぼれました。
どこかで「笑うことさえ、申し訳ない」と思っていた自分に気づいたからです。
でも親は、本当は私の苦しむ顔なんて、見たくないはずなんです。
だからこそ、自分がまず幸せでいることが、親孝行の第一歩。
「がんばらない」ことに、罪悪感を抱く必要なんてない。
むしろ、“がんばらない勇気”こそが、
親を大切にする一番の近道になるのかもしれません。
🧹 無理せず頼れる「家事サポート」という選択肢
「掃除や洗濯をちょっとだけ手伝ってもらう」
そんな小さな支援からでも、親の心と身体が少しずつラクになります☺️
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おわりに:親が介護サービスを拒否するときの“心構え”
介護に「正解」はありません。
誰もが初めてのことで、正しい手順なんて最初からわかる人はいないんです。
けれど、大切なのは 「気持ちに寄り添う姿勢」。
そして、自分自身も大切にする視点です。
親がサービスを拒否するとき、
「どうしてわかってくれないの?」と悲しくなることもあります。
でもその背景には、親なりの不安や葛藤がある。
まずはそこに、そっと耳を傾けてみることから始めてみてください。
あなたが“疲れ切る前”にできること
介護は長期戦です。
だからこそ、ひとりで抱え込まないことが本当に大事です。
頼れる制度、使えるサービス、手を貸してくれる人は必ずいます。
それを「他人任せ」ではなく、“チーム”で支える選択だと思ってみてください。
あなたが笑えること。それが一番の親孝行
「私が頑張らなきゃ」
「私が我慢すればいい」
──そうやって、がんばりすぎているあなたへ。
もしかしたら、親はあなたに「無理してまで」やってほしいとは思っていないかもしれません。
むしろ、
あなたが笑っていること、
あなたが幸せでいること。
それこそが、いちばんの安心であり、
本当の親孝行なのではないでしょうか。
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